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2020.11.12

『全日記 小津安二郎』フランス改訂版刊行

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『全日記 小津安二郎』フランス改訂版刊行のお知らせ

皆様、お元気ですか?コロナ下のパリから、お知らせです。
足掛け、3年の月日をかけて、ついに大冊「全日記 小津安二郎」のフランス改訂版が刊行されました。
この本は、日本の誇る大監督、小津安二郎のばらばらに書かれた大量の日記を、故、田中真澄さんが編纂し、1993年に出版されましたが、文字通リ、田中さん御本人の視力を落とす程の命がけの大変な仕事でした。そして3年後にフランスで翻訳本が出版され、その翻訳をなさったのが、ジョジアーヌ・川竹さんです。これもまた、小津日記原本の読みにくさから来る編纂上の読み間違いや、翻訳時に仏出版社側が訳者の意向を全く無視して強いた時間制限との格闘などで、彼女の辛苦も筆舌に尽くせぬ程でした。
フランスでは、この間違いの非常に多い翻訳本は、全部売り切れ、一般には、とても手の届かぬ超高値がついているという状況となり、一方、日本語オリジナル版は、年月を経て細かい間違いが多々発見され、小津家の人々にとっては、納得できない本になっていました。小津の義妹にあたるハマさんが、日記原本と比べながら、この本に、一つ一つ付箋をつけて、登場人物に直接、確認し、その後、十年以上の月日をかけて、間違っている部分を全部訂正する作業を行いました。その訂正された、いわば完全版の小津日記が、未だに日本では出版されず、フランスで、先に刊行されることになったのです。

今回の完全版の刊行は、カルロッタ社(フランスで日本映画の配給及びDVD販売などを行う大手映画系の出版社)の若き社長、ヴァンサン・ポール=ボンクール氏が、私に、小津の日記を再出版したいと相談して来た事から始まりました。私は、小津の権利継承者、小津亜紀子さんとコンタクトを取らせていただき、その時に初めて、前に述べた、この本の複雑な状態を知ったのです。前の翻訳本をそのまま出しては、いけない。・・・それは一種のミッションの様でした。私は、小津ハマさんの貴重な時間を凝縮した、小津家にとって、いや世界の小津ファンにとって、たった一冊の宝を、一頁、一頁、書き写すことから始めました。幸いなことに、翻訳者のジョジアーヌさんは、お元気で、快く間違いの訂正と新しい解説を書くことを引き受けてくださいました。

・・・・・そして、2年! 私は、改めて、フランスという国の、文化の懐の深さを感じております。今回は、完全に裏方の仕事でしたが、手塚さゆりも、良く私を助けました。フランス側のパスカル=アレックス・ヴァンサンも大協力してくれました。他にも、沢山の方たちの御助力で、このロックダウンの大変な状況のフランスで、新しい小津全日記が産声を上げました。私は、沢山の仏語圏のファンの方たちに、遺された小津映画の名作に重ねながら、彼の日記を読んでいただきたい。彼と一緒に好物の“日本酒”や“ウナギ”や “最中”・・・そして、なによりも、取り巻きの人たちとの、まるで彼の映画の様に暖かな交流を、感じていただきたいです。この本が、再出版されたのは、奇跡だと思っています。

2020年11月 パリにて  
遠藤突無也